略式起訴とは?手続きの流れと注意点を弁護士が詳しく解説

目次

略式起訴とは何か

略式起訴は、日本の刑事手続において比較的軽微な犯罪に対して、正式な裁判手続きを経ずに迅速に処分を下す特別な手続です。この手続は、通常の裁判とは異なり、公開の法廷での審理が行われず、書面のみで審理が進められます。略式起訴は、検察官が簡易裁判所に対し、罰金もしくは科料の刑罰を言い渡すよう求めるものであり、被疑者が罪を認め、早期の解決を望む場合に適用されます。

略式起訴の背景と意義

略式起訴の制度は、司法手続を効率化し、軽微な犯罪に対して迅速な処分を行うことを目的としています。この手続は、被疑者にとっても早期の社会復帰を果たす機会を提供し、刑事手続に伴う心理的・経済的負担を軽減する効果があります。略式起訴が適用される事件は、主に交通違反や軽微な窃盗などが対象となります。

略式起訴の手続きの流れ

検察官は、捜査の結果に基づいて略式起訴が適当であると判断した場合、被疑者に対して略式手続について説明を行います。これには、略式手続の内容や結果についての詳細な説明が含まれます。

被疑者が略式起訴に同意する場合、正式な裁判手続きを放棄し、略式手続による処分を受け入れる旨を記載した同意書に署名・押印します。この同意が得られなければ、略式起訴は行われません。

検察官は、被疑者の同意を得た後、簡易裁判所に対して略式命令の請求を行います。簡易裁判所は、検察官から提出された書面をもとに審査を行い、適切な処分を決定します。

簡易裁判所は、検察官の請求書を審査し、略式命令を発令します。この略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑罰などが記載されます。

略式命令が発令されると、被疑者は指定された罰金を納付する必要があります。罰金の納付が完了すると、略式起訴の手続は終了します。

略式起訴のメリットとデメリット

メリットデメリット
裁判に出席する必要がない事実関係を争う機会がない
迅速に事件が解決する違法な捜査による証拠がそのまま使用される可能性がある
非公開で進行するためプライバシーが保たれる無罪を主張することができない

略式起訴の具体例

以下は略式起訴により処理された具体的な事例です:

  • 道路交通法違反:無免許運転や酒気帯び運転などで罰金刑が言い渡されることが多いです。
  • 窃盗罪:軽微な窃盗行為に対しても略式起訴が適用されることがあります。

略式起訴の手続きの詳細

略式起訴を受ける場合、以下のポイントに注意が必要です:

罰金の納付:略式命令により言い渡された罰金は指定の期日までに納付する必要があります。

異議申立て:略式命令に不服がある場合、14日以内に正式裁判を請求することができます。

略式起訴の統計

令和4年の犯罪白書によると、検察庁が最終的に処分を決定した事件のうち、略式起訴により処理された件数は全体の21.3%を占めています。

略式起訴を選択する際の注意点

略式起訴は、軽微な事件に対する迅速な処分手段として有効ですが、無罪を主張したい場合や事実関係に争いがある場合には適していません。弁護士に相談し、自身の状況に適した対応を選択することが重要です。

略式起訴の手続の流れ詳細

  1. 検察官による略式手続の説明・告知
    • 検察官は、略式手続とは何かを被疑者に理解させるため、必要な事項の説明を行います(刑事訴訟法461条の2)。被疑者が検察官の説明を理解できない場合は、さらに具体的かつわかりやすく説明するように求めましょう。また、検察官は被疑者に対して、正式裁判による審判を受けることができる旨を告げる必要があります。
  2. 被疑者による申述書の提出
    • 略式手続によることにつき異議がない場合、被疑者は検察官に対してその旨の申述書を提出します。申述書の様式は事件事務規程に定められています。被疑者は、検察官から交付される様式に沿って、日付・住居・氏名を記載して提出しましょう。
  3. 検察官による略式命令請求
    • 被疑者から異議がない旨の申述書が提出された場合、検察官は公訴の提起と同時に、簡易裁判所に対して書面で略式命令の請求を行います(刑事訴訟法462条1項)。略式命令の請求書には、被疑者(被告人)から提出された申述書を添付しなければなりません(同条2項)。
  4. 簡易裁判所による審査
    • 簡易裁判所は、以下のいずれかに該当すると判断した場合には、正式裁判による審理を行わなければなりません(刑事訴訟法463条1項、2項)。
      • 事件が略式命令をすることができないものであるとき
      • 事件が略式命令をすることが相当でないものであるとき
      • 検察官が略式命令請求に関する手続きに違反したとき
    • 上記に該当しない場合には、簡易裁判所は検察官から提出された書面について審査を行い、略式命令の内容を決定します。
  5. 簡易裁判所による略式命令
    • 簡易裁判所は審査の完了後、被告人に対して略式命令を告知します。略式命令には、以下の事項を記載しなければなりません(刑事訴訟法464条)。
      • 罪となるべき事実
      • 適用した法令
      • 科すべき刑および附随の処分
      • 略式命令の告知があった日から14日以内に正式裁判を請求できる旨
  6. 異議がある場合は正式裁判の請求
    • 略式命令に異議がある場合、被告人・検察官は、略式命令の告知日から14日以内に正式裁判を請求できます(刑事訴訟法465条1項)。正式裁判の請求は、略式命令をした簡易裁判所に対して書面を提出して行います(同条2項)。正式裁判への移行後も、第一審の判決があるまでは、正式裁判の請求を取り下げることが認められています(刑事訴訟法466条)。取下げがなされた場合、略式命令が確定します(刑事訴訟法470条)。正式裁判において判決が言い渡された場合、略式命令は失効します(刑事訴訟法469条)。
  7. 略式命令の確定・罰金or科料の納付
    • 略式命令は、以下の場合に確定します(刑事訴訟法470条)。
      • 正式裁判の請求期間が経過した場合
      • 正式裁判の請求が取り下げられた場合
      • 正式裁判の請求を棄却する裁判が確定した場合
    • 確定後、被告人は検察庁に対して、略式命令で定められた罰金または科料を納付します。納付方法については、検察庁の徴税事務担当者に確認してください。なお、罰金・科料を完納できない場合は、労役場留置となります(刑法18条)。

略式起訴を受け入れることのメリット・デメリット

メリットデメリット
禁錮以上の刑は科されない無罪を主張することはできない
短期間で刑事手続きから解放される量刑について被告人側の主張が考慮されない
公開法廷での裁判を回避できる略式起訴でも前科がつく

略式起訴のメリットは、禁錮以上の刑を科されないこと、短期間で刑事手続きから解放されること、公開法廷での裁判を回避できることです。一方で、無罪を主張することができず、量刑について被告人側の主張が考慮されないデメリットもあります。また、略式起訴でも前科がつくため、その影響を考慮する必要があります。

略式起訴の具体的な事例

犯罪名罰金相場略式起訴の適用例
道路交通法違反5万円~50万円無免許運転、酒気帯び運転など
窃盗罪10万円~30万円軽微な窃盗行為
過失運転致死傷罪10万円~50万円交通事故による過失

道路交通法違反

道路交通法違反での罰金刑は、無免許運転や酒気帯び運転の場合が多く、罰金相場は5万円から50万円程度です。これらの違反行為に対して略式起訴が適用されることがあります。

窃盗罪

窃盗罪での罰金刑は10万円から30万円程度が相場です。軽微な窃盗行為に対しても略式起訴が適用されることがあります。

過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪での罰金刑は10万円から50万円程度です。交通事故による過失に対して略式起訴が適用されることがあります。

略式起訴に関する統計

令和4年の犯罪白書によると、検察庁が最終的に処分を決定した事件のうち、略式起訴により処理された件数は全体の21.3%を占めています。これは、多くの軽微な犯罪が略式起訴によって迅速に処理されていることを示しています。

略式起訴を選択する際の注意点

略式起訴は、軽微な事件に対する迅速な処分手段として有効ですが、無罪を主張したい場合や事実関係に争いがある場合には適していません。弁護士に相談し、自身の状況に適した対応を選択することが重要です。略式起訴を選択する前に、そのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な判断を下すためのサポートを受けることが推奨されます。

略式起訴に関するQ&A

略式命令を受けると前科が付くのか?

略式命令が確定した場合、刑事罰が科されるため、被告人には前科が付きます。前科が付いた場合、再度罪を犯すと量刑が加重される可能性が高いので注意してください。

罰金・科料を支払わないとどうなるのか?

確定した略式命令に基づく罰金・科料を支払えない場合、労役場留置の処分がおこなわれます(刑法18条)。労役場留置の期間は、未納5000円当たり1日の労役場留置が一般的です。

罰金・科料を準備できない場合はどうすべきか?

罰金・科料をすぐに準備できなくても、検察庁の徴収事務担当者に一部納付または納付延期を申し出れば、労役場留置を回避できる可能性があります。

略式起訴を避けたい場合は弁護士に相談を

不起訴となるべき場合や無罪を主張して争う場合を除けば、短期間で刑事手続きから解放される略式起訴は、被告人にとってメリットの大きい手続きといえます。特に、嫌疑が確実で不起訴も期待できない場合には、正式起訴ではなく略式起訴を目指すべきでしょう。しかし、懲役刑・禁錮刑や100万円を超える罰金刑を科すべきと検察官が判断した場合は、正式起訴がおこなわれてしまいます。被疑者としては、起訴される前に検察官に対して良い情状をアピールして、求刑を軽いものにとどめるよう働きかけるべきです。弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉や検察官とのやり取りを通じて、できる限り正式起訴を避けるための弁護活動をおこなってもらえます。自身や家族が犯罪捜査の対象となった場合は、すぐに弁護士まで相談してください。

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弁護士紹介

執筆者

代表弁護士 坂口 靖

坂口靖の写真

千葉弁護士会所属

刑事事件を専門とし、多数の無罪判決や画期的な成果を獲得してきた実績があります。

書いた人紹介

刑事弁護実績600件以上!

強制わいせつ致傷事件で無罪判決、窃盗事件で無罪判決2件、道路交通法違反事件で無罪判決、強制性交事件で認定落ち判決、殺人未遂事件で中止犯認定による執行猶予判決など、多くの困難な刑事事件で圧倒的な成果を達成しています。

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